院長コラム

COLUMN

落屑緑内障について

2023.05.06

 当院で治療中の緑内障患者様のうち、手術適応のある中等度以上の患者様には、順天堂大学眼科緑内障外来の松田彰助教授との併診をお願いしています。先の日本眼科学会総会で、松田先生が演者として参加されていた「落屑緑内障」に関するシンポジウムを拝聴して来ました。そこで今回は、この落屑緑内障についてお話ししたいと思います。
 「落屑」とは聞きなれない言葉ですが、ふけの様な細かい白いゴミが眼内の水晶体や虹彩などに付着した病態を落屑症候群と呼びます。この落屑が隅角部に沈着して、眼内の水が外へ出にくくなり、眼圧が上がると落屑緑内障になります。通常は、片眼に発症しますが、加齢とともに両眼性になることもあります。眼圧の変動が激しく、時には緑内障発作のように40mmHg以上に上がることもあります。また、治療に対して眼圧のコントロールが悪く、進行が速い事も特徴です。治療は、通常の開放隅角緑内障と同様に、種々の点眼薬、レーザー治療さらには観血的手術が行われますが、予後の不良な症例が多いとされています。また、落屑物質は水晶体嚢やチン氏小体、虹彩、角膜内皮にも沈着するため、白内障や水晶体脱臼、散瞳不全、角膜内皮障害などが合併しやすくなります。
 今回の学会で松田先生は、手術法に関するお話をされていました。落屑緑内障、特に難治性症例、高齢者症例に対しては、チューブシャント挿入術が良いのではないか、とのお話でした。
 落屑緑内障と診断された患者様は、通常の緑内障患者様に比べ、より頻回に緑内障検査を行い、眼圧や視野の状態を十分に把握しておく必要があると思います。

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緑内障発作と緑内障の種類

2020.10.11

「内科の先生に、お薬を処方したいのだけれど緑内障を悪化させることがあるので内服可能かどうか、眼科の先生に聞いてください。」と言った質問を緑内障の患者様から受ける事があります。ある種の鎮痛剤、睡眠薬、安定剤、消化管運動抑制剤(ブスコパン等)、パーキンソン病治療薬など抗コリン作用のある薬剤を投与されると、瞳孔が拡大し隅角(眼内のお水の出口)が狭くなり、眼内に水がたまり、眼圧が急激に上がってしまうことがあります。「急性緑内障発作」と呼ばれる状態です。緑内障発作を起こすと、瞳孔が拡大し、白目は充血し、すりガラス越しに見ているようにかすみ、視力が低下します。また、眼痛、頭痛、吐き気などを自覚することもあります。こうなってしまったら、直ちに眼科的な治療をして、眼圧を下げなければなりません。高眼圧のまま放置しておくと短期間に失明に至る場合もあります。しかし、この緑内障発作は、全ての緑内障患者様に起こるわけではありません。緑内障は、隅角の広さによって、広隅角緑内障と狭隅角緑内障の2つのタイプに大別されます。緑内障発作は、このうちの狭隅角緑内障の患者様のみに起こります。我が国では緑内障患者様の多くは、広隅角緑内障です。緑内障と診断された方は、ご自分が上記の2つのタイプのどちらの緑内障か、知っておく必要があります。必ず掛かり付けの眼科医に聞いておいてください。一般的に、元々遠視で裸眼視力が良い人は狭隅角のことが多く、その様な方は加齢とともにますます隅角が狭くなり、緑内障発作を起こす可能性が高くなります。年齢が50才以下の方は、たとえ狭隅角であっても、緑内障発作を起こすことは殆どありません。従って、緑内障と診断された方であっても、広隅角緑内障の方、年齢が50才以下の方は、抗コリン剤の投与は可能です。一方、50才以上の狭隅角緑内障の方は出来るだけ抗コリン剤の投与は避けていただくように、内科の担当医にお伝えください。

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緑内障の有病率

2019.10.23

 平成12~13年に行われた緑内障に関する疫学調査、いわゆる「多治見スタディ」の結果は、私たち眼科医にとって実に衝撃的なものでした。岐阜県多治見市の40才以上の住民の中から無作為に選んだ4000人を対象に緑内障の患者さんが何人いるのかを調べた研究です。その結果、緑内障を疑われる患者さん(有病率)が、なんと5%もいることが明らかにされました。しかも、この緑内障と診断された人のうち、72%は眼圧の正常な正常眼圧緑内障の患者さんという事でした。有病率5%ということは、実に40才以上の成人20人に1人が緑内障患者になります。当時大学の医局に所属していた私は、同僚眼科医と「こんなデータありえないよね。緑内障の患者さんがこんなにいるはずがないし、まして緑内障患者さんのうち72%が眼圧正常なんて考えられない。何処か間違っている!」等の感想を述べ合い、すんなりと受け入れる事は出来ませんでした。信じ難いという思いでした。当時、大学病院に来られる患者さんの中で、緑内障の患者さんがそれ程多いわけでもなく、眼圧が正常であれば緑内障と診断するのにはちょっと躊躇してしまう時代でしたから、我々眼科医にとって、本当に衝撃的な調査結果でした。それまで眼圧の正常値は、21mmHg以下と言われていましたが、この調査結果によって、眼圧が21mmHg以下であっても緑内障が発症することがわかり、事実上正常眼圧の数値的定義は、全く無くなってしまいました。
平成14年に大学病院を辞し池袋で開業し、大学病院というバイアスのかからないごく一般的な患者さんを診察するようになると、今度は逆に緑内障の患者さんが非常に多いことに驚かされました。当クリニックの一般の患者さんや眼科ドックを受診された患者さんについても約5%の方が緑内障疑いという結果で、それらの患者さんの約70%は眼圧が20mmHg以下でした。多治見スタディの結果が正しかった事を自らの診察の中で確認することができました。さらに、コンタクトレンズ処方を希望して受診される20代、30代の若い人の中にも、緑内障の特徴的所見の1つである視神経乳頭の陥凹拡大を観察することがあります。そうした患者さんには、ご両親など血縁者に緑内障と診断された方がいる事が多く、眼圧は17~20mmHgぐらいとやや高い傾向にあるように思います。多治見スタディでは、40才未満の方については調査しておらず、若年者に発症する発達緑内障(特に遅発型)を含めた若い方のデータはありません。発達緑内障とは別に、ごくごくゆっくりと進んでいく超慢性疾患である広隅角緑内障(正常眼圧緑内障も含む)が40才になったら突然発症するとは考えにくく、40才よりももっと早い時期から発症している患者さんが意外と多いのではないかと推測しています。若年者の広隅角緑内障について、文献的検索も含めて、もう少し勉強してみたいと思っています。

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