院長コラム

COLUMN

小児の近視眼に対するオルソケラトロジー治療について

2021.07.09

  オルソケラトロジー治療とは、特殊な形状の高酸素透過性ハードコンタクトレンズを夜間就寝時に装用することによって、角膜前面を平坦化させて近視を矯正する方法です。この方法で十分な矯正が得られれば、昼間はメガネやコンタクトレンズが不要となり、裸眼で快適に過ごすことができます。また、装用を中止すれば、角膜形状や屈折状態は元に戻りますので、可逆的な安全性の高い方法と言えますが、長期的な副作用については、新しい治療法ですので解っていないのが現状です。一方、近年小児期にこのレンズを継続して装用すると、眼軸長の伸展が抑制され近視の進行が抑制されることが解ってきました。成人後、強度近視になると様々な重篤な眼の病気を引き起こすことが知られています(悪性近視)。本方法は、単に近視を矯正するだけではなく、強度近視とそれに伴う重篤な眼合併症(悪性近視化)を予防できるという点で大変意味のある治療方法と思われます。

カテゴリー| 近視

近視について 2.近視進行抑制法

2020.07.29

先のウェブ学会のセミナーで、慶応大学と大阪大学の先生がご講演されていた内容を含め、最近話題になっている近視進行抑制の方法をいくつかご紹介します。①毎日一定時間屋外活動で太陽の光を浴びる。屋外活動の時間は、長い程抑制効果が大きくなりますが、一日1~2時間、一週間10時間程度で良いとされています。太陽光の中の紫外線に近い紫色の光が眼軸長の伸長を抑えると考えられています。②オルソケラトロジー。特殊な形状のハードコンタクトレンズを夜間就寝中に装用させ、中央部の角膜を平坦化させ、屈折力を下げると共に、眼軸長の伸長を抑制させようとする方法です。装用開始年齢が早い程効果が高いと言われています。しかし、小学校低学年から角膜形状を変化させて後々問題が生じることは無いのか?という心配もあります。③散瞳・調節麻痺剤であるアトロピン点眼薬を低濃度(0.01~0.5%)に希釈したものを長期に点眼する。その効果によって、屈折値、眼軸長共に抑制しようとする試みです。0.01%だと効果が弱く、0.5%では散瞳や調節障害で日常生活に支障をきたすことがあります。我が国では低濃度アトロピン点眼薬は販売されておらず、眼科医が個人的に海外から輸入して使われています。一部では、若年者への長期投与に対する悪影響も懸念されています。④高齢者が使用するような二重焦点や累進多焦点の遠近両用メガネを装用し、近見時の調節緊張を軽減し近視抑制を期待する方法です。種々のデザインのレンズが考案されていますが、抑制効果はあまり大きくはないようです。⑤眼鏡と同様にソフトコンタクトレンズでも、いくつかの遠近両用レンズが考えられています。コンタクトレンズは、角膜に密着しており、眼鏡よりも近視抑制効果が大きいと言われています。ただ、6,7歳の小児にコンタクトレンズの装脱や管理は難しいかもしれません⑥クロセチンの内服。クロセチンは、クチナシ等に含まれるカロテノイドという黄色の色素の1つです。従来より抗酸化作用、血液循環亢進、抗炎症作用などを有すると考えられていましたが、最近EGR1という近視進行抑制遺伝子の発現を促進することで、近視進行を抑制する事が解ってきました。既にサプリメントとして市販されています。

実際の治療にあたっては、治療効果もさることながら、副作用・合併症等も考慮して十分に検討してから選択すべきと思います。

 

カテゴリー| 近視

近視について 1.近視で重要なこと

2020.07.08

前回お話したオンライン学会の一つで、近視抑制に関するセミナーがありました。小中学生のお子さんをお持ちのお母様方にとっては、大変興味のある話題かと思いますので、近視について、2回に分けてお話ししたいと思います。

近視とは、角膜や水晶体の屈折力が強いため、又は眼軸長(眼球の前後径)が長いため、遠方の物を見た時、像のピントが網膜の前方で結んでしまう状態です。前者は屈折性近視、後者は軸性近視と呼ばれています。近年、パソコンやスマートホンの普及のためか、近視になる子供たちが益々増加しています。慶応大学の調査(2018年)では、東京都内の小学生の約75%、中学生の95%が近視との事です。通常の近視は眼鏡又はコンタクトレンズを装用すれば、日常生活に支障をきたす事はありません(単純近視)。しかし、近視がより強くなり、眼球の眼軸長が長くなり、いわゆる強度近視にまで進行してしまうと、網膜脈絡膜萎縮、黄斑出血、黄斑円孔、網膜分離、網膜剥離などを併発し(悪性近視)、最悪の場合失明に至る事もあります。強度近視による網膜脈絡膜萎縮症は、我が国の中途失明の原因疾患の中で4,5番目、原因全体の5~8%を占めており、東京都の難病に指定されています。この軸性近視の原因すなわち何故眼軸長が伸びるのかについて、遺伝、環境どちらの因子がより強く関与しているのか、長い間議論されてきました。サルやヒヨコの眼を用いた実験は世界中で行われました。私も30代の頃、眼球の壁である強膜のコラーゲン線維の型を調べることにより眼軸長伸長の原因を解明しようと試みたことがありました。残念ながら、当時の研究からは、画期的な成果を得る事は出来なかったように思います。しかし、最近になって眼軸長が伸長する原因とその抑制方法について、先のセミナーでも紹介、議論されていましたが、いくつかの優れた研究が報告されています。次回は、最近研究されている近視進行の原因とその抑制方法について、具体的にお話したいと思います。

カテゴリー| 近視