▶円錐角膜

2019年09月17日

 先日、17才の少年が視力の低下を訴えて来院しました。右眼の裸眼視力は0.1でしたが、非常に強い近視性乱視があり、めがねをかけての視力(矯正視力)は、0.7でした。左眼も右眼とほぼ同様の視力でした。通常、近視性乱視だけで他に病気がなければ、度の合っためがねをかけると視力は、1.0以上になるはずです。何か眼の中に病気はないかと、水晶体や眼底を観察してみましたが、何もありません。そこで、改めて角膜(黒目の表面にある透明な膜)を診ると、両眼の角膜中央にごくごく細い3,4本の線状混濁とわずかなリング状の薄茶色の色素沈着を見つけました。これらは、円錐角膜という病気の特徴的な所見です。更に角膜形状解析装置で、強い不正乱視であることを確かめました。これで、この少年の視力低下の原因は、単なる近視性乱視ではなく円錐角膜のためとわかりました。
 多くの方にとって、「円錐角膜」は初めて聞く病名だと思います。円錐角膜とは、非常にゆっくりと角膜の中央が薄くなって突出し、不正乱視になる病気です。少し大げさに言えば、角膜が中央付近を頂点として円錐状になる病気です。通常、10歳代前半に発症し、20歳から25歳頃まで進行し、30歳までにはほとんど止ってしまいます。約80%の人は両眼性で、女性に比べて男性に多く見られます。原因は、遺伝、胎児期の異常、ホルモンの異常、角膜神経が分泌する物質(神経伝達物質)の異常など、さまざまな説がありますが、未だに明らかではありません。円錐角膜の患者さんの皮膚をつまんでみると、とても柔らかでマシュマロのような感触を受けることがあります。角膜は皮膚(真皮)と同様にコラーゲン線維が主な構成成分ですが、円錐角膜では、この線維同士をしっかりと束ねる架橋と呼ばれる組織に異常があり、線維を強固に束ねられていないのかもしれません。最近、紫外線を当てて、この架橋組織を強固にするクロスリンキング法という治療法も試されています。
多くの患者さんは、適切なハードコンタクトレンズを装用すれば1.0の視力が得られます。しかし、約20%の患者さんは、突出が強くなって、コンタクトレンズの装用が困難になります。その場合には、角膜移植術が必要になります。突出した角膜を通常の形状をした角膜に入れ替えるのです。円錐角膜に対する角膜移植術の成功率は約95%と良好です。
 私どものクリニックを受診した少年は、ハードコンタクトレンズの装用で、両眼ともに1.0の視力を出すことができました。