

院長コラム
COLUMN眼科関連サプリメント
2023.08.13
サプリメントの国内市場は、年間1兆円を超えようとしており、眼科疾患をターゲットとしたサプリメントも多数市販されています。日本眼科医会発行の医学雑誌「日本の眼科」の7月号に「眼科とサプリメント」という特集記事(総論)が掲載されました。今回は、この記事の内容をまとめて皆様にお伝えしようと思います。
この特集記事では、加齢黄斑変性、緑内障、ドライアイ、白内障に対するサプリメント又はその含有成分を取り上げています。
アメリカにおける大規模スタディでは、加齢黄斑変性に対し、ビタミンCおよびE、ルテイン、ゼアキサンチン、亜鉛を含む複合サプリメントを摂取すると、本症発症率を5年間で約25%抑制すると報告されています。この複合サプリメントは、全てのサプリメントの中で最もエビデンスレベルの高いものに分類され、医薬品と同程度の科学的根拠が示されている数少ないサプリメントと言えます。
緑内障の悪化要因として、高眼圧以外で、酸化ストレスによる網膜神経節細胞の損傷が考えられています。抗酸化物質であるイチヨウ葉、オメガ3・6、コエンザイムQ10、緑茶抽出物、アスタキサンチン、ビルベリー、ヘスペリジン、クロセチン等が動物実験や臨床試験で、酸化ストレスの軽減、神経節細胞死の抑制、軽度の眼圧下降等の効果を示したとの報告があります。ただ、いずれの報告も対象患者数が少なく、高いエビデンスが示されたとは言えません。更に症例数を増やして検討する必要があります。
ドライアイの改善に、オメガ3脂肪酸、ラクトフェリン、乳酸菌などを含んだサプリメントが期待されています。オメガ3脂肪酸には、抗炎症作用による涙液の安定化やマイボーム腺機能不全の改善が期待されています。また、ラクトフェリンや乳酸菌は、涙液機能を維持すると考えられています。しかし、現時点では、これらのサプリメント成分のエビデンスは「弱い」と判断されています。
加齢に伴う白内障の発症機序として、酸化ストレス、糖化ストレスがあります。従って、抗酸化物質、抗糖化物質に発症や進行の抑制効果が考えられますが、今の所、エビデンスが「高い」と言える物質はありません。
サプリメントは、医薬品とは異なりきちっとした臨床治験が行われておらず、科学的根拠が示されているものはほとんどありません。また、有効成分の含有量が不十分なものもあり、その取捨選択に当たっては、掛かり付け医師と相談の上、自分に合ったものを上手に利用することをお勧めいたします。
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落屑緑内障について
2023.05.06
当院で治療中の緑内障患者様のうち、手術適応のある中等度以上の患者様には、順天堂大学眼科緑内障外来の松田彰助教授との併診をお願いしています。先の日本眼科学会総会で、松田先生が演者として参加されていた「落屑緑内障」に関するシンポジウムを拝聴して来ました。そこで今回は、この落屑緑内障についてお話ししたいと思います。
「落屑」とは聞きなれない言葉ですが、ふけの様な細かい白いゴミが眼内の水晶体や虹彩などに付着した病態を落屑症候群と呼びます。この落屑が隅角部に沈着して、眼内の水が外へ出にくくなり、眼圧が上がると落屑緑内障になります。通常は、片眼に発症しますが、加齢とともに両眼性になることもあります。眼圧の変動が激しく、時には緑内障発作のように40mmHg以上に上がることもあります。また、治療に対して眼圧のコントロールが悪く、進行が速い事も特徴です。治療は、通常の開放隅角緑内障と同様に、種々の点眼薬、レーザー治療さらには観血的手術が行われますが、予後の不良な症例が多いとされています。また、落屑物質は水晶体嚢やチン氏小体、虹彩、角膜内皮にも沈着するため、白内障や水晶体脱臼、散瞳不全、角膜内皮障害などが合併しやすくなります。
今回の学会で松田先生は、手術法に関するお話をされていました。落屑緑内障、特に難治性症例、高齢者症例に対しては、チューブシャント挿入術が良いのではないか、とのお話でした。
落屑緑内障と診断された患者様は、通常の緑内障患者様に比べ、より頻回に緑内障検査を行い、眼圧や視野の状態を十分に把握しておく必要があると思います。
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花粉症について
2023.02.01
今年も花粉症の季節が近づいてきました。2年前に花粉によるアレルギー性結膜炎の発症機序についてお話しましたが、今回も花粉症を取り上げたいと思います。
東京では、今年のスギ花粉は2月中旬から飛散しはじめ、3月下旬までにピークに達するとの予測です。ヒノキの花粉は、スギ花粉より少し遅れて4月上旬がピークです。
花粉によるアレルギー性結膜炎の症状は、充血、かゆみ、涙目、目やになどです。特に、かゆみが強いと、ついつい目をこすってしまいます。過度にこすりすぎると白目がむくんでブヨブヨになります(結膜浮腫)。症状の似た病気にアデノウィルス性結膜炎があります。ウィルス性結膜炎は周囲の人に感染しますので、この病気との鑑別は大変重要です。必ず眼科医の診断を受けてください。
毎年花粉症に罹る方は、飛散開始約2週間前から抗アレルギー点眼薬を始めてください。前回もお話した「初期療法」です。かゆみなどの症状が軽減されると考えられています。最近では、一日2回のみの点眼で十分効果の得られる点眼薬も発売されていますので、試してみてください。
近年、花粉量の少ないスギや全く花粉を出さないスギが品種改良で生み出されています。花粉症に悩まされている方には朗報です。しかし、現在あるスギの木が、花粉の少ない品種に置き換わるには、恐らく50年、100年と言った時間が必要でしょう。国内産木材の需要が高まり、伐採と植林が盛んに行われ林業全体がもっと発展していく必要があります。花粉症が無くなるのは、まだまだ先の話ですね。
カテゴリー| アレルギー性結膜炎
再び注目されるヨード製点眼薬
2022.11.25
ヨード(ヨウ素)は、わかめや昆布に含まれているひとの身体には必要不可欠なミネラル成分です。体内では、ほとんどが甲状腺に存在し、甲状腺ホルモンの構成成分として重要な働きをしています。
一方、ヨードは昔から殺菌薬、消毒薬として広く使われてきました。中年以上の方なら、擦り傷などのけがをした時、消毒薬として傷口に塗った「ヨードチンキ」を覚えておられる方も多いでしょう。また、昔からうがい薬として多くの人々に使われてきました。近年、「ヨードうがい薬が新型コロナウイルス感染に予防効果がある。」と言った某県の知事さんが、科学的根拠が無いと批判を浴びてしまった事もありました。
しかし、ヨード剤はウィルスを含めた多くの病原体に有効である事は、昔から良く知られた事実です。眼科手術を含む外科手術の際には手術野の消毒に広く使われています。眼科領域では、洗眼殺菌薬及びヘルペス性角膜炎やアデノウィルス性結膜炎の点眼薬として1965年に承認されていますが、抗ウィルス点眼薬としては、何故かあまり使われませんでした。
しかし、ヨード剤は抗菌スペクトラムが広くどんな細菌やウィルスにも一定の殺菌消毒作用があること、抗生物質のような薬剤耐性菌が生じないことなどの理由から、近年殺菌消毒点眼薬として改めて見直され注目されています。本年9月にはOTC(要指導医薬品)点眼薬として発売され、どなたでも薬局で直接入手できるようになりました。また、先月(10月)の日本臨床眼科学会でもヨード製剤の眼科的活用に関する複数の演題が報告されています。
今後、ヨード製点眼剤が洗眼殺菌消毒薬として広く使用されるようになるものと思います。ご興味のある方は、眼科医または薬局の薬剤師さんにご相談ください。
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令和4年11月より眼科手術を始めます。(副院長記)
2022.10.08
令和4年11月より当クリニックで白内障などの眼科手術を始めます。
現在、その準備を急ピッチで進めている所ですが、手術執刀医である副院長の中安弘毅より当クリニックの手術に関する基本的姿勢や考え方について、ご紹介したいと思います。
私は2008年から日本大学医学部附属板橋病院眼科に勤務し、眼科学の診断と治療について研鑽を積んでまいりました。特に、精密な技術を必要とする眼科手術について興味を持ち、当初から白内障や緑内障、眼瞼下垂や内反症などの外眼部(まぶた)疾患など、多くの手術について研修させていただきました。その後、複数の医局関連の地方中核病院でも責任者として年間400~500例の白内障手術やその他上記疾患に対する手術を経験し、現在も当クリニック勤務の傍ら手術経験を重ねております。その経験を活かし、当クリニックにおいても今以上に皆様のお役に立てるように手術部門を立ち上げた次第です。
開院以来の当クリニックの診療理念である「医学的根拠に基づいた診療」「患者様の立場に立った誠実な診療」を手術の適応や施行にあたっても厳格に守っていきたいと思います。手術前には、本当にその手術が必要かどうか、患者様と十分に話し合い、患者様一人ひとりに応じた的確なアドバイスをさせて頂きます。また、手術の合併症、予想される術後の状態等、医師のみならず看護師やORTからも必要な説明をいたします。
当クリニックでの手術をご希望の患者様には安心して手術を受けられますよう、できる限りのことをさせて頂きます。どうぞよろしくお願い申し上げます。(副院長記)
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