院長コラム

COLUMN

緑内障手術の新たな術式を採用しました

2024.06.05

 緑内障診療ガイドラインによると、緑内障とは「視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」と定義されています。
眼圧を十分に下降させることが唯一の治療になるわけですが、その手段の一つに手術が
あります。
 緑内障手術には大きく分けて流出路再建術と濾過手術の二種類の方法があります。
前者は当院でも従来から行われてきた術式で、後者と比較すると合併症は少ないが眼圧
下降効果はやや劣ります。軽度から中等度の緑内障の方や使用している目薬の種類を1本でも減らして日常の負担を減らしたい等の患者様に向いてます。
 一方、濾過手術は緑内障の進行が早い、眼圧が思うように下がらない患者様で、より厳格に眼圧を下げなくてはいけない場合に適応となります。
従来の濾過手術は眼圧下降効果は優れているものの、合併症の発生率がやや高く、術後
の眼圧が安定するまで時間を要したりと管理が難しい側面があり、クリニックで行うに
は少々ハードルの高い術式でした。
 しかし、近年プリザーフロマイクロシャント手術という新しい術式が開発され、低侵襲で合併症の発生率も低く、将来的にも期待が持てる術式と考えられていることから、今回当院でも採用する運びとなりました。
 緑内障治療の基本は点眼薬ですが、生涯にわたって緑内障と上手に付き合っていくための一つの手段として本術式が有用と思われる患者様には提示、選択していきたいと考えております。(文責:副院長)

カテゴリー| 緑内障

EDOF(イードフ) レンズ について

2024.05.18

 EDOF(Extended Depth of Focus)レンズとは、独自の設計で焦点を結ぶ距離を広げたレンズ、つまり焦点深度を拡大して解像度や明るさを損なうことなく遠方から近方まで連続してピントが合うように設計されたレンズです。アイフォンの一部に搭載されたカメラ、工業用カメラ、大腸内視鏡カメラ等にこのEDOFレンズが使われているそうです。眼科領域では、白内障手術の時に挿入される多焦点眼内レンズのなかに、このEDOFレンズを用いたレンズがあります。通常の多焦点眼内レンズに比べて遠方から近方まで眼鏡を使うことなく安定した視力が得られ、夜間でも視力が保たれ、ハローやグレアを生じることの無く、より自然な見え方が得られると言われています。また、ソフトコンタクトレンズにも、この理論を応用して新しいタイプの遠近両用レンズが開発され市販されています。1枚のレンズ上に遠・中・近の度数を年輪の様に何重にも連続して配置することにより、遠方から近方までよりスムースに安定して見えるように設計されています。ごく最近、このソフトコンタクトレンズを7才から15才の近視眼の小児に装用させて、1年間の近視の進行度を通常の単焦点レンズメガネ装用者と比較した研究がインドから報告されました。それによると、近視の進行を59%、眼軸長の伸展を49%抑制したとの事です。従来の累進焦点レンズ眼鏡による近視抑制効果に比べて非常に良い結果です。今後、近視進行抑制の新しい治療法として普及するかもしれません。更に、調節力の低下した高齢者に対する眼鏡へのEDOFレンズの応用も研究されています。
 EDOFレンズの今後の発展に注目したいと思います。

カテゴリー| レンズ

動体視力について

2024.03.30

 視力には、ランドルト環と呼ばれるC字形の指標を用いて測定する静止視力(一般的な視力)の他に、動いている物を識別する動体視力があります。更に動体視力は、左右に動く物を識別するDVA(Dynamic Visual Acuity)と前後方向に動く物を識別するKVA(Kinetic Visual Acuity)に分けられています。
 物を見るという事は、目に入ってきた光を網膜の視細胞が捉え、神経信号に変換し、視神経を通して脳の視覚野を刺激する事で成立します。静止視力は、眼内の角膜、水晶体、網膜などの機能に左右される一方、動体視力には、眼球を動かす筋肉やそれを支配する脳神経などの働きが強く関与していると言われていますが、詳細は不明です。
 40年程前、眼科医に成りたての頃、米国のスポーツビジョン研究会という眼鏡士の学会に出席し、初めて動体視力という言葉に接しました。何人かの眼鏡士が、有名な野球選手の動体視力を訓練し打撃成績を向上させたと発表していました。学会発表というより自慢話のようであまり学問的ではない気がしました。動体視力は、今日に至るまでスポーツビジョンと密接な関係を保っています。日本のプロ野球選手や球技のオリンピック選手が動体視力を良くする訓練を受けたという話をしばしば耳にします。動体視力は訓練によって良くすることができ、スポーツのパフォーマンスも向上すると考えられています。
 高齢者の運転免許更新時にも動体視力検査が行われています。遠方から一定のスピードで近づいて来る指標を識別するKVA動体視力を測定します。このKVAは、70才を超えると急激に低下するそうで、その事が高齢者の自動車事故の一因と推測されています。
 犬や猫の静止視力は、0.2~0.4とヒトの視力より悪いのに、動くものを見る能力すなわち動体視力は非常に良いと考えられています。静止視力が悪いのに、動体視力が優れているという事が有り得るのでしょうか?
 動体視力の測定法として、学問的に確立された方法は未だにありません。動体視力とは、動いている物を識別する視機能と定義できますが、本当に静止視力とは区別されるべき全く別の視機能なのでしょうか?何だか良く解らなくなってしまいました。

カテゴリー| 視力

タイゲソン点状表層角膜炎について

2023.12.23

 本日は、最近経験したタイゲソン点状表層角膜炎についてお話しします。比較的稀な疾患で、当クリニックには、1年間で2、3人程の新患の方が受診されます。
 通常、両眼性ですが、片眼のみの場合、左右で発症時期が異なる場合もあります。若年の女性に多いと言われていますが、男女あらゆる年齢層に発症します。最近当クリイックで診察した2名の患者様は、いずれも男性で20歳代、40歳代でした。自覚症状は、比較的強い異物感、眼痛、羞明感(まぶしさ)を訴えます。視力は重症例で経度低下します。所見としては、角膜全体に点状の混濁がぽつぽつとびまん性に観察されます。フルオレセインで染色すると、混濁の中央のみが染色されます。結膜は多くは正常ですが、うっすらと充血している場合もあります。
 原因は、何らかのウイルスに対する免疫反応ではないかと考えられていますが、詳細はいまだに分かっていません。
 治療はステロイド点眼で、多くの症例では1、2か月程で混濁は消失します。しかし、中にはステロイドの効果が乏しく遷延化し、角膜上皮下に混濁が残ることもあり、タリムスやパピロックミニといった免疫抑制剤の点眼薬を使う症例もあります。更に、異物感や痛みが強い場合には、ソフトコンタクトレンズを装用します。
 この病気の特徴の1つとして再発しやすい点が挙げられます。再発の頻度は、数か月から数年と様々です。初期の症例では、診断は比較的容易ですが、ヘルペス性角膜炎、アデノウィルス性結膜炎後の点状角膜炎等との鑑別が必要です。特に遷延化した症例では、角膜上皮下に混濁を来たし、上記のような他疾患との鑑別が難しい場合もあります。しかし、遷延化や再発があっても、その時期に応じた点眼薬を適切に選択投与することで、最終的には治癒する病気です。
 上記のような症状のある方、タイゲソン角膜炎と診断されたがなかなか治らない方、当クリニックを受診してみてください。
 今年もあと8日を残すのみとなりました。来たるべき年が、皆様にとって幸多き良い年となりますよう心よりお祈り申し上げます。

カテゴリー| 角膜

眼科関連サプリメント

2023.08.13

 サプリメントの国内市場は、年間1兆円を超えようとしており、眼科疾患をターゲットとしたサプリメントも多数市販されています。日本眼科医会発行の医学雑誌「日本の眼科」の7月号に「眼科とサプリメント」という特集記事(総論)が掲載されました。今回は、この記事の内容をまとめて皆様にお伝えしようと思います。
 この特集記事では、加齢黄斑変性、緑内障、ドライアイ、白内障に対するサプリメント又はその含有成分を取り上げています。
 アメリカにおける大規模スタディでは、加齢黄斑変性に対し、ビタミンCおよびE、ルテイン、ゼアキサンチン、亜鉛を含む複合サプリメントを摂取すると、本症発症率を5年間で約25%抑制すると報告されています。この複合サプリメントは、全てのサプリメントの中で最もエビデンスレベルの高いものに分類され、医薬品と同程度の科学的根拠が示されている数少ないサプリメントと言えます。
 緑内障の悪化要因として、高眼圧以外で、酸化ストレスによる網膜神経節細胞の損傷が考えられています。抗酸化物質であるイチヨウ葉、オメガ3・6、コエンザイムQ10、緑茶抽出物、アスタキサンチン、ビルベリー、ヘスペリジン、クロセチン等が動物実験や臨床試験で、酸化ストレスの軽減、神経節細胞死の抑制、軽度の眼圧下降等の効果を示したとの報告があります。ただ、いずれの報告も対象患者数が少なく、高いエビデンスが示されたとは言えません。更に症例数を増やして検討する必要があります。
 ドライアイの改善に、オメガ3脂肪酸、ラクトフェリン、乳酸菌などを含んだサプリメントが期待されています。オメガ3脂肪酸には、抗炎症作用による涙液の安定化やマイボーム腺機能不全の改善が期待されています。また、ラクトフェリンや乳酸菌は、涙液機能を維持すると考えられています。しかし、現時点では、これらのサプリメント成分のエビデンスは「弱い」と判断されています。
 加齢に伴う白内障の発症機序として、酸化ストレス、糖化ストレスがあります。従って、抗酸化物質、抗糖化物質に発症や進行の抑制効果が考えられますが、今の所、エビデンスが「高い」と言える物質はありません。
 サプリメントは、医薬品とは異なりきちっとした臨床治験が行われておらず、科学的根拠が示されているものはほとんどありません。また、有効成分の含有量が不十分なものもあり、その取捨選択に当たっては、掛かり付け医師と相談の上、自分に合ったものを上手に利用することをお勧めいたします。

カテゴリー| サプリメント