院長コラム

COLUMN

白内障手術 多焦点眼内レンズ

2019.07.09

白内障の手術では、混濁した水晶体を取り除き、代わりに人工水晶体である眼内レンズを挿入する方法が行われています。この白内障手術の際に挿入される眼内レンズのうち、多焦点レンズが最近話題になっています。従来の眼内レンズは、遠方または近方のどちらか一方にしかピントが合わない単焦点レンズのみでした。所が、2007年、遠方、近方双方に焦点が合う多焦点眼内レンズが厚生労働省から認可され、2008年には先進医療として承認されました。現在白内障手術は、国内で年間約140万件が行なわれていますが、このうち多焦点眼内レンズを用いた手術は約5%程でしょうか。当クリニックの白内障の患者さんからも、単焦点と多焦点のどちらの眼内レンズが良いのか、という質問をしばしば受けます。そこで、今回は、多焦点眼内レンズの特徴についてまとめてみました。

 

多焦点眼内レンズの特徴 (単焦点眼内レンズと比較して)

1.遠方、近方ともに焦点が合うため、術後眼鏡装用を必要としない確率が単焦点レンズに比べて高い。100%眼鏡がいらないという訳ではない。一方、単焦点レンズは、遠近どちらか一方にしかピントが合わないため、ピントの合わない距離を見る時は、眼鏡やコンタクトレンズが必要である。

2.中間領域は、ピントが合わない。

3.コントラストが悪く、淡い濃淡がはっきりしない。

4.映像にシャープさ、鮮明さに欠ける。細部にわってしっかり見たい人、カメラマン、画家、デザイナー、工芸職人等の方にはお勧めしない。

5.夜間や暗所での見え方が悪く、光を見るとハロー(光のおび)やグレア(にじみ)を感じる。従って、夜間の運転の多い職業ドライバーには、むかない。

6.遠方、近方両方からの像が同時に網膜に映るので、見たくない方の像を無視するように、脳が自動的に反応する(中枢反応)。人によっては、特に高齢者や神経質な人では、この中枢反応がなかなかできないことがある。

7.もともと瞳孔径(ひとみ)の小さな人では、近方視が悪くなる傾向がある。

8.乱視の強い人では、二重に見える、歪んで見える等が強調されることがある。

9.手術費用が高額である。多焦点眼内レンズを用いた手術には保険適応が無く、自由診療となり、医療機関によって異なるが片眼30~50万円程である。

10.先進医療に指定されている。民間の医療保険加入者で高度先進医療特約を結んでいる方は、認定医療機関で承認された多焦点レンズを用いた手術をすれば、保険会社から保険金が支払われる。

11.最近、遠、中、近と3つの距離に焦点を合わせることができる3焦点眼内レンズを用いた手術も一部で行われているが、3焦点レンズは、厚生労働省の承認を得られていないため、先進医療の適応外となり、全て自己負担となる。

12.2019年4月、遠方から中間距離に焦点の合う眼内レンズ(加入度1.5Dの分節型レンズ)  が承認され、しかも保険適応となった。今後の普及が期待されるが、どの程度の有用性があるのか今の所、未知数である。

 

多焦点眼内レンズを挿入した人のなかで、実際に眼鏡を全く使用しないで生活できている人の割合は、約80%だそうです。恐らくその人たちの大半は、多焦点レンズに満足していることと思います。一方、何らかの原因で、折角入れた多焦点眼内レンズを摘出しなければならなくなった人も約1.2%いるそうです。高価なレンズだから素晴らしいレンズであるとは言えません。白内障手術の際には、どんな眼内レンズが自分に合っているのか、コストパフォーマンスも含め、十分に検討してから選んでいただき、後悔の無い白内障手術にしていただきたいと思います。

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白内障の手術時期

2019.06.12

白内障で3か月に1度通院している患者さんが、「そろそろ手術したいと思うけど、いかがでしょうか?」

私は「矯正視力は、両眼ともに1.0ですから、まだ大丈夫だと思いますよ。どうして手術をやりたいと思ったのですか?」

患者さん「友達が白内障の手術をしてとても良く見えるようになったと言っていたので、私もやりたくなりました。」

私「最近見え方で何か不便を感じますか?」

患者さん「近くが見づらいのは以前からですけど、最近特に不便になった事はありません。」

私「だったらもう少し待ちましょうよ。お友達が良かったからと言って、あなたも必ず良くなるとは限りませんよ。手術は、やらないで済むならやらない方が良いですから。」

最近、診察室で、白内障の患者さんと私との間でこんな会話が日常的にかわされています。確かに、白内障の手術時期が、最近どんどん早くなっています。私が眼科医になりたての頃、約40年前は「矯正視力が(0.1)まで下がったら手術しましょう。」でした。さすがにこれはちょっと極端な昔話ですが、白内障の手術は、術式の改善、手術機械・器具の進歩などによって、手術時間が短かく、合併症の少ない、より安全な手術になりました。また、患者さんのQOL(生活の質)の向上に対する要求度もより高くなっています。このような状況から、手術をする眼科医もされる患者さんも白内障手術をより気軽に捉えるようになり、より早い時期から行なわれるようになりました。現在では、矯正視力が(1.0)であっても行われている場合も決して稀ではありません。しかしながら、手術をするのは名眼科医といえども人間です。いつもいつも完璧な手術が出来るわけではありません。世の中に100%成功する手術は、有り得ません。白内障手術は、眼球を切開し、超音波装置を眼球内に入れ水晶体を砕いて吸引し、代わりに人工水晶体を挿入する、というのが一連の手術手技です。一歩引いて考えてみると、結構恐ろしいことをやっていますね。やらないで済む事なら一生やりたくはないですね。

私が考える白内障手術の時期は、前述の患者さんとの会話の中で、お話したように「視力が低下して、生活上不便を感じるようになった時」だと思っています。具体的にどの程度視力が下がったら不便を感じるかは、個人個人で異なると思いますが、一般的には、矯正視力(0.7~0.8)以下と言ったところだろうと思います。

 

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