院長コラム

COLUMN

緑内障の有病率

2019.10.23

 平成12~13年に行われた緑内障に関する疫学調査、いわゆる「多治見スタディ」の結果は、私たち眼科医にとって実に衝撃的なものでした。岐阜県多治見市の40才以上の住民の中から無作為に選んだ4000人を対象に緑内障の患者さんが何人いるのかを調べた研究です。その結果、緑内障を疑われる患者さん(有病率)が、なんと5%もいることが明らかにされました。しかも、この緑内障と診断された人のうち、72%は眼圧の正常な正常眼圧緑内障の患者さんという事でした。有病率5%ということは、実に40才以上の成人20人に1人が緑内障患者になります。当時大学の医局に所属していた私は、同僚眼科医と「こんなデータありえないよね。緑内障の患者さんがこんなにいるはずがないし、まして緑内障患者さんのうち72%が眼圧正常なんて考えられない。何処か間違っている!」等の感想を述べ合い、すんなりと受け入れる事は出来ませんでした。信じ難いという思いでした。当時、大学病院に来られる患者さんの中で、緑内障の患者さんがそれ程多いわけでもなく、眼圧が正常であれば緑内障と診断するのにはちょっと躊躇してしまう時代でしたから、我々眼科医にとって、本当に衝撃的な調査結果でした。それまで眼圧の正常値は、21mmHg以下と言われていましたが、この調査結果によって、眼圧が21mmHg以下であっても緑内障が発症することがわかり、事実上正常眼圧の数値的定義は、全く無くなってしまいました。
平成14年に大学病院を辞し池袋で開業し、大学病院というバイアスのかからないごく一般的な患者さんを診察するようになると、今度は逆に緑内障の患者さんが非常に多いことに驚かされました。当クリニックの一般の患者さんや眼科ドックを受診された患者さんについても約5%の方が緑内障疑いという結果で、それらの患者さんの約70%は眼圧が20mmHg以下でした。多治見スタディの結果が正しかった事を自らの診察の中で確認することができました。さらに、コンタクトレンズ処方を希望して受診される20代、30代の若い人の中にも、緑内障の特徴的所見の1つである視神経乳頭の陥凹拡大を観察することがあります。そうした患者さんには、ご両親など血縁者に緑内障と診断された方がいる事が多く、眼圧は17~20mmHgぐらいとやや高い傾向にあるように思います。多治見スタディでは、40才未満の方については調査しておらず、若年者に発症する発達緑内障(特に遅発型)を含めた若い方のデータはありません。発達緑内障とは別に、ごくごくゆっくりと進んでいく超慢性疾患である広隅角緑内障(正常眼圧緑内障も含む)が40才になったら突然発症するとは考えにくく、40才よりももっと早い時期から発症している患者さんが意外と多いのではないかと推測しています。若年者の広隅角緑内障について、文献的検索も含めて、もう少し勉強してみたいと思っています。

カテゴリー| 緑内障