院長コラム
COLUMNタイゲソン点状表層角膜炎について
2023.12.23 本日は、最近経験したタイゲソン点状表層角膜炎についてお話しします。比較的稀な疾患で、当クリニックには、1年間で2、3人程の新患の方が受診されます。
通常、両眼性ですが、片眼のみの場合、左右で発症時期が異なる場合もあります。若年の女性に多いと言われていますが、男女あらゆる年齢層に発症します。最近当クリイックで診察した2名の患者様は、いずれも男性で20歳代、40歳代でした。自覚症状は、比較的強い異物感、眼痛、羞明感(まぶしさ)を訴えます。視力は重症例で経度低下します。所見としては、角膜全体に点状の混濁がぽつぽつとびまん性に観察されます。フルオレセインで染色すると、混濁の中央のみが染色されます。結膜は多くは正常ですが、うっすらと充血している場合もあります。
原因は、何らかのウイルスに対する免疫反応ではないかと考えられていますが、詳細はいまだに分かっていません。
治療はステロイド点眼で、多くの症例では1、2か月程で混濁は消失します。しかし、中にはステロイドの効果が乏しく遷延化し、角膜上皮下に混濁が残ることもあり、タリムスやパピロックミニといった免疫抑制剤の点眼薬を使う症例もあります。更に、異物感や痛みが強い場合には、ソフトコンタクトレンズを装用します。
この病気の特徴の1つとして再発しやすい点が挙げられます。再発の頻度は、数か月から数年と様々です。初期の症例では、診断は比較的容易ですが、ヘルペス性角膜炎、アデノウィルス性結膜炎後の点状角膜炎等との鑑別が必要です。特に遷延化した症例では、角膜上皮下に混濁を来たし、上記のような他疾患との鑑別が難しい場合もあります。しかし、遷延化や再発があっても、その時期に応じた点眼薬を適切に選択投与することで、最終的には治癒する病気です。
上記のような症状のある方、タイゲソン角膜炎と診断されたがなかなか治らない方、当クリニックを受診してみてください。
今年もあと8日を残すのみとなりました。来たるべき年が、皆様にとって幸多き良い年となりますよう心よりお祈り申し上げます。
カテゴリー| 角膜
円錐角膜
2019.09.17 先日、17才の少年が視力の低下を訴えて来院しました。右眼の裸眼視力は0.1でしたが、非常に強い近視性乱視があり、めがねをかけての視力(矯正視力)は、0.7でした。左眼も右眼とほぼ同様の視力でした。通常、近視性乱視だけで他に病気がなければ、度の合っためがねをかけると視力は、1.0以上になるはずです。何か眼の中に病気はないかと、水晶体や眼底を観察してみましたが、何もありません。そこで、改めて角膜(黒目の表面にある透明な膜)を診ると、両眼の角膜中央にごくごく細い3,4本の線状混濁とわずかなリング状の薄茶色の色素沈着を見つけました。これらは、円錐角膜という病気の特徴的な所見です。更に角膜形状解析装置で、強い不正乱視であることを確かめました。これで、この少年の視力低下の原因は、単なる近視性乱視ではなく円錐角膜のためとわかりました。
多くの方にとって、「円錐角膜」は初めて聞く病名だと思います。円錐角膜とは、非常にゆっくりと角膜の中央が薄くなって突出し、不正乱視になる病気です。少し大げさに言えば、角膜が中央付近を頂点として円錐状になる病気です。通常、10歳代前半に発症し、20歳から25歳頃まで進行し、30歳までにはほとんど止ってしまいます。約80%の人は両眼性で、女性に比べて男性に多く見られます。原因は、遺伝、胎児期の異常、ホルモンの異常、角膜神経が分泌する物質(神経伝達物質)の異常など、さまざまな説がありますが、未だに明らかではありません。円錐角膜の患者さんの皮膚をつまんでみると、とても柔らかでマシュマロのような感触を受けることがあります。角膜は皮膚(真皮)と同様にコラーゲン線維が主な構成成分ですが、円錐角膜では、この線維同士をしっかりと束ねる架橋と呼ばれる組織に異常があり、線維を強固に束ねられていないのかもしれません。最近、紫外線を当てて、この架橋組織を強固にするクロスリンキング法という治療法も試されています。
多くの患者さんは、適切なハードコンタクトレンズを装用すれば1.0の視力が得られます。しかし、約20%の患者さんは、突出が強くなって、コンタクトレンズの装用が困難になります。その場合には、角膜移植術が必要になります。突出した角膜を通常の形状をした角膜に入れ替えるのです。円錐角膜に対する角膜移植術の成功率は約95%と良好です。
私どものクリニックを受診した少年は、ハードコンタクトレンズの装用で、両眼ともに1.0の視力を出すことができました。
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