院長コラム

COLUMN

コンタクトレンズと点眼薬

2020.03.25

「コンタクトレンズ(CL)を装用したまま目薬を点眼しても良いですか?」という質問をしばしば受けます。点眼薬の中には、主薬剤の他、防腐剤や界面活性剤等が入っているものがあります。特に防腐剤として広く添加されている塩化ベンザルコニウム(BAK)には、細胞毒性がある事が実験的に確認されており、角膜障害の原因となり得る薬剤として広く知られています。また、BAKはソフトコンタクトレンズ(SCL)特に高含水のSCLに浸み込んで蓄積されるため、SCL装用眼では、より重篤な角膜障害を引き起こしたり、CLの性状を変えてしまう可能性が示唆されています。そのために、BAKを含んだ点眼薬の説明書には、「SCL装用眼には使用しないこと」と書かれています。また、多くの眼科医は、SCL装用者にBAK含有点眼薬を処方する際には、「SCLを外してから点眼してください。」と指導しています。しかし、通常私たちが使う点眼薬に含まれるBAKの濃度は、極めて低濃度です。本当にごく微量なBAKが重篤な角膜障害やCL劣化の原因になるのでしょうか?この点について、小玉裕司先生の論文があります。それによると、1232例のCL(SCLとは限らない)装用者について、BAK含有の抗アレルギー点眼薬またはヒアルロン酸点眼薬を処方し、角結膜障害の有無を調べたところ、障害のあった症例は1例も無く、SCLに付着していたBAK量も極めて少なかったと述べています。私のクリニックでもCL装用者にBAK含有点眼薬を処方することがありますが、BAKによると思われる重篤な角膜障害を観察したことは過去に1度もありません。BAKのみならず角膜障害を副作用にあげている点眼薬は多々ありますが、必ずしもSCL装用が角膜障害の発症頻度を高めたり重篤化したりすることはほとんど無いように思います。一日の点眼回数が3,4回以下であれば、SCL装用中であっても、抗アレルギー点眼薬やドライアイ用の点眼薬の使用は、ほとんど問題無いと思います。尤も、最近ではいろいろな種類の点眼薬でBAKの入っていないものが保険適用されていますので、どうしても心配な方は、BAKフリーの点眼薬を処方してもらうように担当眼科医にお話すると良いでしょう。

 

カテゴリー| 点眼薬

ウィルス性結膜炎

2020.02.21

新型コロナウィルス性肺炎に関するニュースが連日報道されています。眼科関係でもウィルスが原因で発症する病気があります。前回取り上げたアデノウィルス性結膜炎はその代表疾患ですが、その他にもウィルス感染が原因の結膜炎があります。今回は、アデノウィルス性結膜炎(流行性角結膜炎)以外のウィルス性の結膜炎についてまとめておきたいと思います。

先ずは、急性出血性結膜炎です。エンテロウィルス又はコクッサッキーウイルスによって発症する結膜炎です。非常に感染力が強く、過去に大流行したこともありますが、最近はあまり見られなくなりました。潜伏期は約1日で、両眼に強い充血、目やに、流涙、瞼の腫れ、耳前リンパ節腫脹などとともに、白目に出血班(結膜下出血)が出現するのが特徴です。院内感染、家族内感染が多くみられます。治療は、アデノウィルス性結膜炎と同様の点眼薬を使用します。

次にヘルペス性結膜炎。主に単純ヘルペスウイルスの感染で発症します。充血、目やになどの結膜炎症状の他に眼瞼に水疱(眼瞼ヘルペス)や角膜や結膜に樹枝状や斑状の潰瘍を伴うことがあります。これらの所見があれば、診断は容易ですが、水疱や潰瘍が無いこともあり、その場合にはアデノウィルス性結膜炎との鑑別は困難です。治療にはゾビラックス眼軟膏を用います。ステロイド点眼はかえって症状を悪化させるため禁忌です。ヘルペスウィルスは、成人の95%で既に感染済みですので、改めて他の人からうつるとか他の人にうつすという事はほとんどありません。

咽頭結膜熱という病気は、のどの痛み、発熱等風邪様症状を伴った結膜炎です。かつては子供たちがプールで感染することが多かったため「プール熱」と呼ばれていましたが、その後、流行性角結膜炎と同様アデノウィルス(主にⅢ型)の感染が原因であることが判り、現在ではアデノウィルス性結膜炎の1つとされています。

現在ウィルスに有効な薬剤は、ほとんどありません。従って、ウィルス性の病気に対しては、他人との接触を避ける、こまめな手洗い、75%以上のエタノールでの消毒などのよる感染予防が何よりも大切です。

カテゴリー| 結膜疾患

アデノウィルス性結膜炎

2020.01.27

 今回は「アデノウィルス性結膜炎」を取り上げます。結膜炎とは、結膜(白目)に炎症を起たす病気で、原因によっていくつかの種類に分類されます。ウイルスの感染が原因のアデノウィルス性結膜炎や急性出血性結膜炎、細菌感染によって起こる細菌性結膜炎、アレルギーが原因のアレルギー性結膜炎や巨大乳頭性結膜炎などがあります。
 アデノウィルス性結膜炎は、アデノウィルスの感染によって発症する急性結膜炎です。感染力が非常に強いため流行性角結膜炎とも呼ばれています。感染してから約1週間の潜伏期の後、結膜の充血、目やに、流涙、ゴロゴロした異物感、まぶたの腫れなどが出てきます。ほとんどの場合両眼性です。耳の前のリンパ節が腫れて痛みを感じる場合もあります。重症の場合、角膜の上皮細胞が剥がれて角膜びらんを起こすとがあり眼を開けていられないほど強い痛みを感じます。アデノウィルスに直接効くお薬はありません。炎症を抑えるためにステロイド点眼薬、細菌の2次感染を防ぐために抗生物質の点眼薬を使います。1~2週間で改善しますが、この間は周囲の人にうつらないように十分注意する必要があります。ご自分の眼に触れないこと、握手等他の人との接触を避けること、こまめに手を洗うこと、出来れば75%以上の消毒用アルコール液で自分の手や触れたものを消毒すること、タオル等を家族と共用しないこと、などに注意しましょう。重症であったり、ステロイド点眼が不十分な場合には、角膜上皮下に点状の混濁が残り、半年から2年間ほど軽度の視力低下を来たすことがあります。
 アデノウィルス性結膜炎は、他の結膜炎やコンタクトレンズ障害、ブドウ膜炎などとの鑑別が難しく、さらに感染力が強く学校や職場で漫延し社会的な問題にもなりかねない病気であることから、何時の時代にも眼科医を悩ませ続けている厄介な病気です。

カテゴリー| 結膜疾患

なみだ

2019.12.31

今年(令和元年)最後のテーマは、涙です。涙は、眼にとって非常に大切なものです。眼の表面にある 角膜(黒目)や 結膜(白目)は、常に液体によって覆われていなければ、正常な構造や機能を保つことが出来ません。これは、口腔内、食道や胃腸の内壁などと同じで、「粘膜」と呼ばれる組織に共通した性質です。
実は涙にもちゃんとした構造があります。正常の涙は、3つの層に分かれています。角膜や結膜に接している一番下の層には、ムチン層いわゆるねばねば物質の層があります。その上に水性の涙液層、これが本来の涙です。さらにその表面を油の層が覆っています。   
ねばねば層は、涙が角膜、結膜の表面全体に均一に分布するように働きます。水性涙液層には大気中から取り込んだ酸素や少量の栄養素が含まれており、角膜を透明に保つように働いています。また、外界から侵入した細菌などに対抗する免疫系の物質も含まれており、様々な異物から眼球を守っています。この水性の涙液層の表面を被っている最表層の薄い油の層は、水性涙液の蒸発を防いでいます。このように涙の3層構造は、それぞれの異なった役割を持ちながら、全体として角膜の透明性を保ち眼球を守る働きをしています。
皆様のなかにも涙が少ないと感じている人が、たくさんいると思います。所謂ドライアイと呼ばれる状態です。特にコンピューターのモニターを長時間見ている人、コンタクトレンズを装用している人などに多くみられます。ドライアイがひどくなると、異物感、充血、眼精疲労などの原因になります。このような症状のある人は、意識してまばたきをするよう心掛けてください。もちろん人工涙液の点眼も有効です。1日に何回も点眼する人には、防腐剤の入っていない点眼薬をお勧めします。それでも症状が改善しなければ、眼科医に相談してください。重症ドライアイのなかには、膠原病と呼ばれる内科疾患と合併している場合や重篤な視力障害の原因となる場合など、専門的な治療を要することもあります。
今年も中安眼科クリニックのホームページをご覧いただき、誠に有難うございました。来年、令和二年も引き続き宜しくお願いいたします。
皆様にとって来るべき令和二年が素晴らしい年となりますよう心よりお祈り申し上げます。

カテゴリー| 涙液、ドライアイ

ものもらい(麦粒腫)

2019.11.26

「ものもらい」という病名は、眼の病気の中で、最も馴染みのある病名の1つではないでしょうか。しかし、同時に最も間違って使われているのも、この「ものもらい」かもしれません。
「ものもらい」の正式な病名は、麦粒腫といいます。まぶた(眼瞼)のふちにある油や汗の分泌腺にブドウ球菌などの細菌が感染して起こる病気です。睫毛の付け根あたりの皮膚が赤く腫れあがり、かなり強く痛みます。進行すると、白い膿点があらわれ、自然に破れて膿が出てきます。重症例では、まぶた全体がパンパンに腫れて、まばたきするだけで痛みを感じます。また、耳の前のリンパ節が腫れることもあります。この病気の原因は、細菌の感染ですから、治療には抗生物質の内服、点眼、軟膏が用いられます。また、膿点がある場合には、穿刺排膿することもあります。「ものもらい」という名前から、他人からうつされたり、他人にうつしたりする病気と思われがちですが、そうした心配はほとんどありません。
一方、この麦粒腫と似た病気で、霰粒腫という病気があります。多くの方は、この霰粒腫のことを、間違えて「ものもらい」と呼んでいるようです。霰粒腫は、マイボーム腺という油を出す分泌腺がつまって硬結(肉芽組織)をつくる病気です。基本的には細菌感染のない無菌性の炎症ですので、痛みは無く、まぶたの皮下に腫瘤を触れるのみです。大きくなれば、まぶたの裏側から切開して摘出します。しかし、時にこの霰粒腫にも細菌が感染することがあります。化膿性霰粒腫と呼ばれています。こうなると先の麦粒腫「ものもらい」と、眼科医でも区別がつき難くなってしまいます。このあたりが、「ものもらい」という病名が、間違って使われている要因の1つかもしれません。 

カテゴリー| 眼瞼(まぶた)疾患