院長コラム

COLUMN

なみだ

2019.12.31

今年(令和元年)最後のテーマは、涙です。涙は、眼にとって非常に大切なものです。眼の表面にある 角膜(黒目)や 結膜(白目)は、常に液体によって覆われていなければ、正常な構造や機能を保つことが出来ません。これは、口腔内、食道や胃腸の内壁などと同じで、「粘膜」と呼ばれる組織に共通した性質です。
実は涙にもちゃんとした構造があります。正常の涙は、3つの層に分かれています。角膜や結膜に接している一番下の層には、ムチン層いわゆるねばねば物質の層があります。その上に水性の涙液層、これが本来の涙です。さらにその表面を油の層が覆っています。   
ねばねば層は、涙が角膜、結膜の表面全体に均一に分布するように働きます。水性涙液層には大気中から取り込んだ酸素や少量の栄養素が含まれており、角膜を透明に保つように働いています。また、外界から侵入した細菌などに対抗する免疫系の物質も含まれており、様々な異物から眼球を守っています。この水性の涙液層の表面を被っている最表層の薄い油の層は、水性涙液の蒸発を防いでいます。このように涙の3層構造は、それぞれの異なった役割を持ちながら、全体として角膜の透明性を保ち眼球を守る働きをしています。
皆様のなかにも涙が少ないと感じている人が、たくさんいると思います。所謂ドライアイと呼ばれる状態です。特にコンピューターのモニターを長時間見ている人、コンタクトレンズを装用している人などに多くみられます。ドライアイがひどくなると、異物感、充血、眼精疲労などの原因になります。このような症状のある人は、意識してまばたきをするよう心掛けてください。もちろん人工涙液の点眼も有効です。1日に何回も点眼する人には、防腐剤の入っていない点眼薬をお勧めします。それでも症状が改善しなければ、眼科医に相談してください。重症ドライアイのなかには、膠原病と呼ばれる内科疾患と合併している場合や重篤な視力障害の原因となる場合など、専門的な治療を要することもあります。
今年も中安眼科クリニックのホームページをご覧いただき、誠に有難うございました。来年、令和二年も引き続き宜しくお願いいたします。
皆様にとって来るべき令和二年が素晴らしい年となりますよう心よりお祈り申し上げます。

カテゴリー| 涙液、ドライアイ

ものもらい(麦粒腫)

2019.11.26

「ものもらい」という病名は、眼の病気の中で、最も馴染みのある病名の1つではないでしょうか。しかし、同時に最も間違って使われているのも、この「ものもらい」かもしれません。
「ものもらい」の正式な病名は、麦粒腫といいます。まぶた(眼瞼)のふちにある油や汗の分泌腺にブドウ球菌などの細菌が感染して起こる病気です。睫毛の付け根あたりの皮膚が赤く腫れあがり、かなり強く痛みます。進行すると、白い膿点があらわれ、自然に破れて膿が出てきます。重症例では、まぶた全体がパンパンに腫れて、まばたきするだけで痛みを感じます。また、耳の前のリンパ節が腫れることもあります。この病気の原因は、細菌の感染ですから、治療には抗生物質の内服、点眼、軟膏が用いられます。また、膿点がある場合には、穿刺排膿することもあります。「ものもらい」という名前から、他人からうつされたり、他人にうつしたりする病気と思われがちですが、そうした心配はほとんどありません。
一方、この麦粒腫と似た病気で、霰粒腫という病気があります。多くの方は、この霰粒腫のことを、間違えて「ものもらい」と呼んでいるようです。霰粒腫は、マイボーム腺という油を出す分泌腺がつまって硬結(肉芽組織)をつくる病気です。基本的には細菌感染のない無菌性の炎症ですので、痛みは無く、まぶたの皮下に腫瘤を触れるのみです。大きくなれば、まぶたの裏側から切開して摘出します。しかし、時にこの霰粒腫にも細菌が感染することがあります。化膿性霰粒腫と呼ばれています。こうなると先の麦粒腫「ものもらい」と、眼科医でも区別がつき難くなってしまいます。このあたりが、「ものもらい」という病名が、間違って使われている要因の1つかもしれません。 

カテゴリー| 眼瞼(まぶた)疾患

緑内障の有病率

2019.10.23

 平成12~13年に行われた緑内障に関する疫学調査、いわゆる「多治見スタディ」の結果は、私たち眼科医にとって実に衝撃的なものでした。岐阜県多治見市の40才以上の住民の中から無作為に選んだ4000人を対象に緑内障の患者さんが何人いるのかを調べた研究です。その結果、緑内障を疑われる患者さん(有病率)が、なんと5%もいることが明らかにされました。しかも、この緑内障と診断された人のうち、72%は眼圧の正常な正常眼圧緑内障の患者さんという事でした。有病率5%ということは、実に40才以上の成人20人に1人が緑内障患者になります。当時大学の医局に所属していた私は、同僚眼科医と「こんなデータありえないよね。緑内障の患者さんがこんなにいるはずがないし、まして緑内障患者さんのうち72%が眼圧正常なんて考えられない。何処か間違っている!」等の感想を述べ合い、すんなりと受け入れる事は出来ませんでした。信じ難いという思いでした。当時、大学病院に来られる患者さんの中で、緑内障の患者さんがそれ程多いわけでもなく、眼圧が正常であれば緑内障と診断するのにはちょっと躊躇してしまう時代でしたから、我々眼科医にとって、本当に衝撃的な調査結果でした。それまで眼圧の正常値は、21mmHg以下と言われていましたが、この調査結果によって、眼圧が21mmHg以下であっても緑内障が発症することがわかり、事実上正常眼圧の数値的定義は、全く無くなってしまいました。
平成14年に大学病院を辞し池袋で開業し、大学病院というバイアスのかからないごく一般的な患者さんを診察するようになると、今度は逆に緑内障の患者さんが非常に多いことに驚かされました。当クリニックの一般の患者さんや眼科ドックを受診された患者さんについても約5%の方が緑内障疑いという結果で、それらの患者さんの約70%は眼圧が20mmHg以下でした。多治見スタディの結果が正しかった事を自らの診察の中で確認することができました。さらに、コンタクトレンズ処方を希望して受診される20代、30代の若い人の中にも、緑内障の特徴的所見の1つである視神経乳頭の陥凹拡大を観察することがあります。そうした患者さんには、ご両親など血縁者に緑内障と診断された方がいる事が多く、眼圧は17~20mmHgぐらいとやや高い傾向にあるように思います。多治見スタディでは、40才未満の方については調査しておらず、若年者に発症する発達緑内障(特に遅発型)を含めた若い方のデータはありません。発達緑内障とは別に、ごくごくゆっくりと進んでいく超慢性疾患である広隅角緑内障(正常眼圧緑内障も含む)が40才になったら突然発症するとは考えにくく、40才よりももっと早い時期から発症している患者さんが意外と多いのではないかと推測しています。若年者の広隅角緑内障について、文献的検索も含めて、もう少し勉強してみたいと思っています。

カテゴリー| 緑内障

円錐角膜

2019.09.17

 先日、17才の少年が視力の低下を訴えて来院しました。右眼の裸眼視力は0.1でしたが、非常に強い近視性乱視があり、めがねをかけての視力(矯正視力)は、0.7でした。左眼も右眼とほぼ同様の視力でした。通常、近視性乱視だけで他に病気がなければ、度の合っためがねをかけると視力は、1.0以上になるはずです。何か眼の中に病気はないかと、水晶体や眼底を観察してみましたが、何もありません。そこで、改めて角膜(黒目の表面にある透明な膜)を診ると、両眼の角膜中央にごくごく細い3,4本の線状混濁とわずかなリング状の薄茶色の色素沈着を見つけました。これらは、円錐角膜という病気の特徴的な所見です。更に角膜形状解析装置で、強い不正乱視であることを確かめました。これで、この少年の視力低下の原因は、単なる近視性乱視ではなく円錐角膜のためとわかりました。
 多くの方にとって、「円錐角膜」は初めて聞く病名だと思います。円錐角膜とは、非常にゆっくりと角膜の中央が薄くなって突出し、不正乱視になる病気です。少し大げさに言えば、角膜が中央付近を頂点として円錐状になる病気です。通常、10歳代前半に発症し、20歳から25歳頃まで進行し、30歳までにはほとんど止ってしまいます。約80%の人は両眼性で、女性に比べて男性に多く見られます。原因は、遺伝、胎児期の異常、ホルモンの異常、角膜神経が分泌する物質(神経伝達物質)の異常など、さまざまな説がありますが、未だに明らかではありません。円錐角膜の患者さんの皮膚をつまんでみると、とても柔らかでマシュマロのような感触を受けることがあります。角膜は皮膚(真皮)と同様にコラーゲン線維が主な構成成分ですが、円錐角膜では、この線維同士をしっかりと束ねる架橋と呼ばれる組織に異常があり、線維を強固に束ねられていないのかもしれません。最近、紫外線を当てて、この架橋組織を強固にするクロスリンキング法という治療法も試されています。
多くの患者さんは、適切なハードコンタクトレンズを装用すれば1.0の視力が得られます。しかし、約20%の患者さんは、突出が強くなって、コンタクトレンズの装用が困難になります。その場合には、角膜移植術が必要になります。突出した角膜を通常の形状をした角膜に入れ替えるのです。円錐角膜に対する角膜移植術の成功率は約95%と良好です。
 私どものクリニックを受診した少年は、ハードコンタクトレンズの装用で、両眼ともに1.0の視力を出すことができました。

カテゴリー| 角膜

眼科診断学 ー眼科診療の方法手順ー

2019.08.20

眼科医になりたての頃、最初に先輩から教えられるのが、眼科診断学です。眼科診断学とは、眼の中に潜んでいるかもしれない異常や病気を見落とすことなく効率よく診察する方法手順の事です。今回は、この眼科の診察方法について、お話したいと思います。

初めて来院された患者さんには、どんな異常があるのか(主訴)を問診票に記入していただきます。私たち眼科医や視能訓練士(眼科検査員)は、その主訴を頭に入れながら、最初に視力検査をします。視力検査は、眼科診断学の基本中の基本です。特に近視、遠視、乱視などの屈折異常を正しく矯正した視力(矯正視力)を重視します。もし、この矯正視力が(1.0)に達していない場合には、何らかの眼科的病気の存在を疑います。矯正視力の低下を起たす病気の代表は、角膜の混濁、白内障、網膜黄斑部疾患などですが、その他様々な目の病気で矯正視力が低下します。

次に眼圧を測定します。風や小さなチップを黒目の表面に当てて測定します。眼圧の平均値は、約14mmHg(ミリ水銀柱)ですが、20mmHgを越えるようであれば、緑内障を疑います。しかし、眼圧が正常付近であってもそれだけで緑内障を否定することはできません。近年、眼圧の正常な緑内障患者さんが沢山存在することが判ってきました。緑内障患者さんのうち、実に75%が正常眼圧の緑内障と言われています。逆に眼圧が低かった場合、特に左右の眼の一方が明らかに低い場合には、網膜剥離が気になります。

患者さんが「二重に見える、目の位置がずれる」などを訴えていれば、眼位や眼球運動の検査をします。斜視や眼球運動障害の有無が分かります。

続いて外眼部即ちまぶたの状態を観察します。まぶたに腫れやしこりがないか(霰粒腫、麦粒腫)、炎症(眼瞼炎)がないか、をチェックします。

次に細隙灯顕微鏡という器械を使って、結膜(白目)や角膜(黒目)の状態を観察します。種々の結膜炎、強膜炎、角膜の病気が観察できます。さらに、水晶体の混濁すなわち白内障の有無、また虹彩炎、ブドウ膜炎と言った眼内の炎症もこの器械で観察することができます。

最後に、眼底検査用のレンズを使って、眼底の所見を観察します。瞳孔の大きさをそのままにした眼底検査では主に視神経乳頭や黄斑部の所見を観察します。眼底の周辺部まで広い範囲を観察したい時には、瞳孔を散瞳剤で大きくした後、倒像鏡やスリーミラーというレンズを用います。糖尿病網膜症、種々の眼底出血、網膜変性、網膜裂孔、網膜剥離などの検索に有用です。

ここでお話した一連の検査は、現在どこの眼科でも行われている基本的な検査だと思います。これらの検査を一つ一つ丁寧に実施することによって、眼の中に隠れている病気を見落とすことなく見つけ出すことができます。場合によっては、これらの基本的な検査で得られたデータをもとに、更により高度で専門的な検査を加えて、最終的な診断に至ることもあります。

これから眼科を受診しようとお考えの方、すでに眼科に通院している方は、上記のそれぞれの眼科検査について十分ご理解いただくことが出来れば、眼科医が行う1つ1つの検査がそれぞれ何を診ているのか、どんな意味を持っているのかを確認しながら診察を受けることが可能になると思います。眼科診療に対するご理解の一助となれば幸いです。

 

カテゴリー| 眼科診療一般